巨きな絵の巡回展
malou(熊本・和水町)
鴨江アートセンター(静岡・浜松市)
今野翼の牛舎(北海道・東神楽町)
norm(和歌山・和歌山市)
橡人(香川・小豆島)
cafe matoca(山梨・北杜市)
BUM(大阪・千早赤阪村)

日暮れ時に集うごはん会にて、ARATiさんの蝋燭に照らされたBUM軒下の巨きな絵 2023.10.21

BUMの絶品スパイスカレー 在廊中、たくやくんのヘアサロンでカットしてもらった 夕暮れ時に集うごはん会 2023.10.21 最後にみんなで記念撮影
左からたくやくん、あきら、熊谷と邑里さん、ななおさん、たみちゃん

2023年の巡回展最後の場所となった、大阪・千早赤阪村のBUMでの展示。
BUMは大阪唯一の村・千早赤阪村の山奥にある、築130年以上の古民家を改装して2021年にオープンしたレストラン・ヘアサロン・ギャラリーの複合施設です。オーナーのあきらが主にギャラリーを担当し、長らくあきらの友人だったたくやくんがヘアサロンを運営、あきらの奥さんであるたみちゃんとスタッフのななおさんがレストランを切り盛りしていて、絶妙なバランスでBUMという一つの場を生み出しています。
それまでの巡回展では、展示場所を営む方との関わりが少なからずあったのですが、BUMは巡回展のためのクラウドファンディングのときに支援してくれたことがきっかけで繋がった、まったく新しい出会いでした。
展示を行う半年前にBUMを初めて訪れたときから、お店やメンバーたちの寛いだ空気感に不思議と「ここなら大丈夫」という妙な安心感を抱いていたのですが、約2週間の展示滞在はその予感通りの、いやそれすら遥かに越えた日々となりました。

 
BUMの絶品スパイスカレー

展示期間中はパートナーの邑里さんと二人でずっとBUMに寝泊まりさせてもらったので、展示前後の滞在も合わせると約半月近くはBUMのみんなと一緒に過ごしていたことになります。
BUMに到着した最初の夜、今回展示に誘ってくれたあきらさんとは同い年ということもあり、それまで敬語でお互いさん付けだったのをやめて「はやと」「あきら」と呼び合うことに。その後数日はお互いにやけながら呼び合っていたものの、呼び捨ての効果もあってか思いのほか早く距離が縮まることになりました。

 

在廊中、たくやくんのヘアサロンでカットしてもらった 巨きな絵の展示は天候を考慮して、展示期間最後の土日のみ行うことになり、それまでは店内での作品展示(今回は邑里さんも一緒に展示をした)のほか、滞在制作を行いつつ、OUR songsを最初と最後の土日に行いました。期間中はBUMと繋がりのあるお客さんだけでなく、関西で自分たちと繋がりのある方たちや、遠方からも友人・知人にたくさんお越しいただき、とても嬉しかったです。
途中であきらからの提案もあり、BUMがポッドキャストで配信しているBUMラジオにも出演・配信することに。自分とあきら、邑里さんとたみちゃんで、それぞれ3回ずつトークを行ったりもしました。
お昼には毎日のようにBUMのまかないカレーをいただいたり、時々バドミントンで遊んだり、夜はご飯会が頻繁に開催されたり(滞在中自分は中津唐揚げを、邑里さんは魯肉飯をつくった)しているうちに、同世代ということもあってか、すっかりBUMのみんなと打ち解けていきました。

 
夕暮れ時に集うごはん会 2023.10.21

そんなふうに過ごしているうちに、展示終盤に予定していた巨きな絵の展示はあっという間にやってきました。21日、みんなの協力で軒先に無事巨きな絵が立ち上がり、日没からはかねてより予定していた”夕暮れ時に集うごはん会”を迎えました。
ARATiさんのうつくしい蝋燭たちに灯された巨きな絵を見ていると、何年も前に自分が書いた一編の詩をふと読みたくなり、ごはん会をはじめる時にみなさんの前で朗読することに。こういう衝動に駆られる感覚は、久しくなかったように思います。
BUMによる素晴らしいコース料理が振舞われたあと、照明を消して蝋燭の光だけで絵を灯す時間がありました。すぐ後ろには燃え立つような色をした柿の木の実たち、夜空には無数の星々と、絵の中に描いたそれと瓜二つの形をした月。そしてちょうどこの日ふもとで行われていただんじり祭の、遠くから聞こえる地霊の如き唸り声。何よりも自分が震えたのは、そのなかで黙して巨きな絵の前に佇む、人々の姿でした。

巡回展を続けていくうちに、巨きな絵という作品自体は自分にとってすっかり”過去”のものとなっていたのですが、巨きな絵の前に立ち上がる光景に驚かされることは幾度となくありました。
そしてこの日の夜、自分のなかで「巡回展の第二部が終わった」と感じました。そもそも第何部まで続くのかもよくわからないのですが、ここでまたひとつの節目を迎えたことだけは確かでした。


正直なところ、BUMでも滞在制作がうまく進められなかったり、展示作品も十分な数を用意できなかったりと、反省点は多々あったのですが、BUMのみんなと一緒に過ごした時間は大きな養分となって、その後の活動にも反映されていったように思います。思いがけず仲が深まったことで、その後も関西での滞在時にBUMを訪れては近況報告をしあったり、別の巡回展のときに食事会をお願いしたりと、親しい関係が続いていきました。
BUMでの巡回展を終えて、最後はあきらが滞在中に制作してくれた貫頭衣を身にまとい、千早赤坂村を後にしました。あらためてあきら、たみちゃん、たくやくん、ななおさん、穏やかでスパイシーな日々を、本当にありがとうございました。

 

最後にみんなで記念撮影
左からたくやくん、あきら、熊谷と邑里さん、ななおさん、たみちゃん

菅野牧園(北海道・栗山町)

ビニールハウスに立ち上がった巨きな絵 2023.10.8

初めて訪れた日、菅野牧園さんのレストランで 2023.3.21  巨きな絵の前でOUR songs 2023.10.8 トーク&対話イベント 2023.10.8 巨きな絵の撤収前に、牧草ロールの上で記念写真

北海道二カ所目となる栗山町・菅野牧園さんでの巨きな絵の展示は、ビニールハウスの中で行われました。
菅野牧園さんとのご縁は2023年3月、オーナーの菅野義樹さんからメッセージをいただいたところからはじまりました。牧園のファームレストランでいつか展示をお願いできたら、というお話と共に、菅野さんが現在に至るまでの経緯が書かれてありました。
東日本大震災・原発事故によってやむなく福島の故郷を離れ、北海道へと移住し牧場を始められたこと。震災による喪失と向き合いながら、福島出身の現代美術家・佐藤香さんへの作品制作の依頼などをとおして、故郷との繋がりや、見えないものとの繋がりをあらためて強く認識したこと。
ちょうど自分が菅野さんからメッセージをいただいた前後に、福島を旅したいと考えていたこともあり、程なくして菅野牧園さんを訪れ、直接対話する機会をいただくこととなりました。祈りとは何か、暮らしや生活のなかで、人はどのようにして見えないものとの繋がりを確かめることができるのか。その後も何度かお話する機会があり、そのたびに自分にとって大切なことを考える時間となりました。

 

初めて訪れた日、菅野牧園さんのレストランで 2023.3.21 菅野牧園さんのファームレストランでは、自家牧場産の母牛のお肉を使ったお料理が提供されていて、ここにも菅野さんの思いがこめられています。店内にはさまざまな作家の作品が飾られており、広々とした窓からは雄大な牧草地を眺めることができます。それぞれから感じられるのは自然や動物への畏敬の念であり、その中で豊かに暮らす、人間の可能性なのだと思います。

 
 巨きな絵の前でOUR songs 2023.10.8

巨きな絵の設営当日、菅野家のご夫妻とレストランのスタッフさん、そしてお手伝いに駆けつけてくださった近隣のみなさまにご協力いただきながら、単管パイプに巨きな絵を吊り、それを義樹さんが重機を巧みに操って、牧草ロールの上に設置することができました。後にも先にも、重機による展示設営(動画)はないかもしれません…。
これまでに様々な場所で巨きな絵の展示をしてきましたが、ビニールハウスという空間はそれまでとまた違った表情を見せながらも驚くほどの一体感がありました。不思議に思いましたが、かつて自分が長く暮らした新潟の田舎の風景をどことなく重ねながら、いずれも人の手から生まれたものたちであるということを思うと、何となく腑に落ちるものがありました。

 

トーク&対話イベント 2023.10.8 展示中の9(日)には午前中にOUR songsが、午後にトークイベントが行われました。OUR songsでは大人から子どもまで、菅野家も含む十人ほどがじっくり参加してくださり、ところどころ土で描かれたり足で描かれたりと、画面の隅々に多彩な表情が現れました。
そのあとお昼には菅野牧園のレストランにて、みなさんでランチをいただきました。この時はじめていただいた、菅野牧園で育った母牛のお肉によるハンバーグがほんとうにおいしくて、忘れられない味となりました。
午後からは巨きな絵について、義樹さんと熊谷の二人による対談形式でトークを行いました。簡単な絵解きのようなお話から、義樹さんとそれまでお話してきたこと(祈りについて)とも関連させていきながらお話を展開し、後半は集まった方からのお話やご感想もいただくなど、終始和やかな雰囲気でトークを行うことができました。


個人的にとても印象に残っているのが、この日巨きな絵の前で歌をうたってくださった方が二人現れたことでした。ひとりはOUR songsが終わった頃にネイティブ・アメリカンの儀式でうたわれたという歌を、もうひとりは午後のトークイベントの感想として即興の子守唄のような歌を、それぞれ絵の前でうたってくれました。呼吸するように揺れる絵と呼応するかのようにうたが響く光景は、とても特別なように思われながら、それがとても自然なようにも思われました。(事実その後も巨きな絵の前で何人もの方が音楽を奏でてくれることになります)

巨きな絵の展示は本来7(金)も開催予定でしたが諸事情で中止になったり、土曜日に予定していた在廊も難しくなってしまったりと、色々とご迷惑をおかけしてしまいましたが、ビニールハウスの中で巨きな絵を立ち上げるという稀有な機会をいただけたことは本当に貴重な体験となりました。菅野牧園の義樹さんと美枝子さんに、心より感謝します。

 
巨きな絵の撤収前に、牧草ロールの上で記念写真
Cafe Millet(京都・京都市)
OUR songsと巨きな絵 Cafe Milletの庭にて(photo: Aya Okazaki)
Cafe Millet 店内での展示風景、窓から見える庭には巨きな絵 日下部邑里 展示風景 総勢20名以上で、あっという間に画面が埋まったOUR songs 青木隼人さんとのLive Painting "My song" live後の巨きな絵の前で焚き火(photo : Aya Okazaki)

北海道・新潟・長野・岐阜と、2023年5~8月にかけて続いた巡回展・第一部とでもいうべき日々の最後は、京都・Cafe Milletにて締め括られました。

Cafe Milletは京都市内から少し離れた里山・静原にある、予約制のレストランです。オーナーの隅岡樹里さんによる、まるで絵画のようにうつくしいお料理たちは、旦那さんの敦史さんが農場で育てたお野菜たちでつくられていて、食べるという体験を越えて自然の営みや生命の循環に自分たちが在ることを、深いところから呼び覚ましてくれます。
邑里さんが京都に住んでいた頃の大切な場所として、Cafe Milletのことを自分に話してくれて、そこからご縁が繋がって巡回展をさせていただくことになりました。

そして今回は京都に住む音楽家の青木隼人さんにもお声がけして、一緒にLive Paintingを行うことになりました。
いつか何かの機会にご一緒できたら、と以前より思い続けてきた自分にとっては、それが巡回展で実現できたことが非常に感慨深かったです。

Cafe Millet 店内での展示風景、窓から見える庭には巨きな絵

展示前日に屋内の展示設営を終わらせて、当日11日の朝から巨きな絵の野外設営。今回も色々あって難航を極めましたが、Milletのあつしさん・じゅりさんの助けもあって、どうにか木に取り付けることができました。この日は風も吹いており時折高く舞い上がった絵はところどころ破れてしまいましたが、なんとか最後まで展示し続けることができました。

日下部邑里 展示風景 この日の店内では、Milletによる喫茶と共に巨きな絵以外の作品をご覧いただきました。また庭文庫に引き続き、パートナーの邑里さんによる写真の展示も行われました。邑里さんにとって大切な場所で展示ができたこと、地元の繋がりのある人たちとたくさん再会できたことで、充実した展示となったようでした。

総勢20名以上で、あっという間に画面が埋まったOUR songs

16時半すぎ、巨きな絵の前で一枚の紙にみんなで絵を描くOUR songsを行いました。 参加者は総勢20名以上はいたでしょうか、外側から静かに絵が描かれていくかと思いきや、子どもたちが我先にと画面の中へ中へと足を踏み入れる、踊るように絵の具を撒き散らす子もいる(手足も鮮やかになる)、数名の大人も両足を鮮やかに踏み込んでいく、いつの間にか全体が絵の具まみれになり、紙も破けてしまう。それでもシートの上から描く、描く…
約1時間のなかであっという間に画面が埋まってしまいましたが、それでもさらにどんどん描こうとする子どもたちの勢いに、ああそうだった、と何か確かめられたような気がして、なんとも頼もしく、微笑みがとまりませんでした。
夢のようなひととき、満ちあふれた時間となりました。
誰よりも遊んでいたかもしれない男の子たちが、最後に率先して絵筆とバケツを洗ってくれたことが印象的でした。

青木隼人さんとのLive Painting "My song"

そして夕闇がせまるなか、青木隼人さんと行ったLive Painting ”My song“。
時に瞑想的な、時に夜空を飛び森を駆け深い海を潜るような時間のなかで、途中からは暗闇に近く何を描いているのか自分でも判然としないまま、刻々と絵は生まれていきました。夕方に見つけたカニを描いたり、地面に絵具をこぼして足ですくい画面に叩きつけたり、紙をちぎったり、画面にとどまらず鹿の骨や鳥の羽で空に線を描いたり、画面に投影される陰影を線に見立てたりするうちに、気がつけば1時間が過ぎていました。
自分ひとりでは泳げないところまでも、青木さんのピアノが”そこにある、そこにいる”と音で伝えてくださったようで、心強い限りでした。とけあう、というよりは個々で深く潜りながらそれぞれの世界を併走し(My song!)、共時的に場が、音が、絵が生まれたという印象があります。
絵は、音楽は、まだまだ遠く未知のところへ自分を運んでくれると強く信じられたひとときでした。有難い機会を、ほんとうにありがとうございました。

Liveのあと、最後に巨きな絵の前で火を焚いていただいたのですが、自分と邑里さんはLiveの片付けやお客さんとゆっくりお話をしているうちに見逃してしまいました。でもそれはそれで良かったような気持ちもあります。この日の光景をたくさん撮影してくださったAya Okazakiさんのお写真を見て、最後に絵が燃える姿をそこに重ねることができました。

じゅりさんの言葉をお借りするなら、まさに”パーフェクト”な一日だったと思います。 巡回展の第一部の終わりにふさわしく、このうえない一日でした。

live後の巨きな絵の前で焚き火(photo : Aya Okazaki)
庭文庫(岐阜・恵那市)
庭文庫にて 店主の百瀬雄太さんは巡回展に呼応するように絵を描き、展示をしてくれた
庭文庫でうたうももせさん 2023 春 日下部邑里 展示「かげ在りて ひかり盈(み)つ」 自分と邑里さんのお気に入りの本コーナーを、庭文庫が用意してくれた 庭文庫でのOUR songs、恵那川を背景に 常連さん(?)のあみちゃんと 百瀬雄太 絵展 「舟風灯影 風の舟とともに鳴り産まれたひかり」 庭文庫を去るとき。百瀬夫妻はいつも宿泊客の旅立ちを歌って送り出す

庭文庫は、一言ではとてもいい表せない不思議な、けれど自分にとっては他ならぬ場所のひとつです。築100年以上前の古民家に、今昔さまざまな本が部屋のあちこちに置かれ、積まれている。いつも素敵なレコードがかかっている。宿として泊まることもできる。
そしてここには、いい意味で店主然とせずに居(お)る、百瀬雄太さんと百瀬実希さんの存在があります。

庭文庫でうたうももせさん 2023 春

庭文庫を初めて訪れたのは2019年、いまから約4年前のこと。
おふたりと出会った回数は指で数えられる位なのに、まるで昔から遊んでいた幼馴染であるかのような感覚が、どこかにずっとあります。

ももせさんとは2017年にWEBマガジン「アパートメント」の連載をとおしてゆるやかに繋がり、そのさらに前には吉祥寺でほとんど同時期に同じ喫茶に通っていたらしく、なんだか似たような星のもとにある気がしています。
ももせさんの音楽は、木と、鳥と、虫と、猫と、机と、畳と、そして空と、とけあっている。綴る言葉は、ももせさんがうたううたそのもののように生えてゆく。時折描かれる絵は、植物がその感官を内から外へ翻したかのように、むきだしになっている。 凄いひとだ、と思います。

そんなももせさんと共に庭文庫をつくったみきさんもまた、凄いひとだと思います。ももせさんだけでなくみきさんがいるからこそ、庭文庫は庭文庫になるのだと思う。自分はみきさんの描く文章が好きで、時折ついnoteを読みたくなってこっそり読んでしまいます。恵那を出る時のみきさんのあまりにあっけらかんとした「バイバーイ」は、思い出すたびなんとも心地がいい。

こんな風に徒然と書きたくなるような魅惑に溢れた場所、それが庭文庫なのだと思います。

庭文庫 巨きな絵の展示風景

庭文庫での巨きな絵の展示は、前回のしろくま座と同様、一部屋の天井に吊るして天井画のような形で展示を行いました。畳に寝転がりながらじっくり全体を眺めてくださるお客さんもいて、かつて2019年に大阪・gallery yolcha併設のギャラリーFLAT spaceで、和室に天井画のように巨きな絵を展示した時のことが思い出されました。
それ以外の作品たちは、店内の様々な場所に散りばめるようにして展示をしました。まるで本の森の中に溶け込むようにして切り絵の生きものたちが在る姿たちは、展示としては変わった風景ではありますが、自分はそれを見ることができてとても嬉しかったです。

日下部邑里 展示「かげ在りて ひかり盈(み)つ」

今回はももせさんからのお誘いもあり、邑里さんも店内で写真の展示を行いました。前回のしろくま座でもポスターを一枚だけ展示していましたが、庭文庫では額装作品のほか、ポスター・ポストカードの販売も行いました。
本人にとっても本格的な展示の機会となったのはこれが初めてでしたが、たくさんの方にご覧いただき、反響も多くありました。

自分と邑里さんのお気に入りの本コーナーを、庭文庫が用意してくれた

また今回、自分と邑里さんのお気に入りの本たちを一部販売するコーナーをご用意いただきました。
自分や庭文庫の店主ふたりが吉祥寺時代に足繁く通った喫茶・トムネコゴの店主の平良さんから、トムネコゴにしか置いていない平良さんの自著二冊を、この展示限定で初めて卸していただいたりしたことも、嬉しい出来事のひとつでした。

庭文庫でのOUR songs、恵那川を背景に 常連さん(?)のあみちゃんと

庭文庫での巡回展の催しとして、みんなで絵を描く"OUR songs"が7月30日と8月5日の二回にわたり、庭文庫の庭で行われました。恵那川を背にしながら、大人から子どもまで多くの方にご参加いただきました。

そして会期終盤の8月5日からは、ももせさんによる絵の展示がはじまりました。
ももせさんの当時の投稿曰く、「まったく予定にはなかったんですが、突然僕の絵の展示が、始まりました。熊谷隼人さんとyuri kusakabeさんの展示と共に暮らすなかで日々産まれた絵を展示しました、というか、することに絵に決められました。」
ももせさんは特定の誰かの作風を真似・模写したりすることなく、絵を描き続けていった結果、”自ずから生える絵”とでもいうべきような絵を生みだしていました。他ならぬ描くことで描くことが生まれていくこと。その生々しさが、ももせさんの絵には刻まれていました。

本当は会期中、自分も新しい絵を庭文庫に滞在しながらどんどん描くつもりでした。巡回展のために持ってきた作品たち(切り絵の生きものやコラージュ作品)とは異なる、即興的な、作品未然とでも呼ぶべきような絵たちを、絵のただなかをゆくままに描いてみたい、そう思っていました。
しかし諸事情で思いがけず滞在期間が短くなってしまったため、残念ながら滞在制作は(OUR songsをのぞいて)ほぼ全く実現しませんでした。このこともあって庭文庫での展示には心残りが強くあるのですが、自分ができなかった分をあたかも代わりに表象するかのように(本当は違うと思いますが)、ももせさんの展示がうまれ、それを観させてもらえたことはほんとうに有難く、おおきな贈りものをいただいたように感じています。

百瀬雄太 絵展 「舟風灯影 風の舟とともに鳴り産まれたひかり」

8月6日にはギャラリートークが行われ、ももせさんと二人で一時間ほどお話しました。ギャラリートークの題とした"根をもつことと翼をもつこと"という言葉は、自分にとってもももせさんにとってもかけがえのない本"気流の鳴る音"から引用したもので、ギャラリートーク中にうまくこの題をとおして話せたかというと自信はないのですが、ひとつ場を共有できたことがとてもありがたかったです。

巨きな絵も、それ以外に店内の様々な場所に散りばめて展示した作品たちも、いずれもずっと前からここにあったかのように佇んでいたのですが、それでいて最後に作品をすべて搬出し終えたときには、不思議とさみしさをまったく感じなかったことが、庭文庫らしいところなのかもしれない、と思いました。

展示を終えて庭文庫を後にするとき、ももせさんとみきさんが原田郁子の「銀河」をうたいながら、娘のむぎちゃんと共に見送ってくれた姿が、今でも記憶に残っています。

庭文庫を去るとき。百瀬夫妻はいつも宿泊客の旅立ちを歌って見送る
しろくま座(長野・喬木村)
しろくま座 一階・喫茶空間の展示風景
しろくま座二階にて、天井画となった巨きな絵 しろくま座のクリームソーダ 夜喫茶の日、一階の喫茶室 2023.07.21 しろくま座のなつさん、ひさこさん、ほーちゃんと

しろくま座は巡回展が行われた2023年7月にオープンした、築90年以上経つ小さな洋館風古民家(もとは村の診療所だったそうです)を改装したカフェです。二階はギャラリースペースとなっており、そこでの最初の展示として巨きな絵の巡回展を行わせていただくことになりました。

しろくま座をオープンした友人・塩澤尚子さんとの出会いは、まだ自分が大学生だった頃でした。その頃ひさこさんは絵本を描いていて、自分も今とはだいぶ違う画風で、イラストや絵本を描いたりしていました。
時は流れて、久しぶりに再会したのが2019年のこと。ひさこさんは長野で現在しろくま座を一緒に営んでいるパートナーのなつさんと出逢っていて、自分は何だかんだ絵を描き続けていて、それぞれの道を歩き続けていることを確かめられたことが、とても嬉しかったことを憶えています。

巡回展の開催地を探しはじめたときにひさこさんが声をかけてくれて、2023年4月にまだお店がはじまる前のしろくま座を初めて訪れました。そのうつくしい空間と、辺り一帯ののどかな風景にすっかり魅了されると共に、ひさこさんが然るべき場所へ辿り着いたように感じられて、静かに胸が熱くなりました。
さらにその時ご依頼をいただき、しろくま座のショップカードのデザインを自分とパートナーの邑里さんとで手がけさせていただくことになったことも、とても嬉しい出来事でした。

しろくま座二階にて、天井画となった巨きな絵

本来の展示日程は7月13日から22日までを予定していたものの、熊谷が雨灯での展示終了直後に体調を崩して寝込んでしまい、やむをえず会期を数日遅らせて、7月20日から24日までに変更することに。これに伴い、ひさこさんの要望もあって15日に予定していた音楽家・里花さんによるライブも中止となってしまい、大変申し訳なかったです。
巡回展の過密スケジュールをこなすうえで、自分の身体をいたわることをつい疎かにしてしまいがちだったことを、この時深く反省しました。(実際にはこの後も巡回展のあいだに何度も体調を崩すことになるのですが…)

巨きな絵の展示は、二階のギャラリースペースで座ったり寝転んだ状態で見上げながら絵を観ることができるよう、柱に取り付けました。会期中の喬木村は気温が高く、窓を開け放って扇風機もつけながらの展示でしたが、日々風をはらんでいく絵の姿は、どこかうれしそうにも見えました。

一階の喫茶室では、巨きな絵以外の作品を展示しました。また巡回展にいつも同行してくれているパートナーの邑里さんも、今回写真を少しだけ展示しました。展示、ということに自分以上に葛藤を抱いてきた邑里さんでしたが、嬉しい反応が今回幾つもあったようで、自分も嬉しかったです。

夜喫茶の日、一階の喫茶室 2023.07.21

7月22日は特別企画として、しろくま座にとっても初めての試みとなる夜喫茶を行いました。一階喫茶室・二階ギャラリースペース共にくらがりに蝋燭を灯された空間はうつくしく、また偶然にも近くで花火大会があったようで、祭りの気配も感じつつ夏の夜気につつまれて、忘れがたい時間を過ごすことができました。

連日在廊しながら喫茶もさせてもらい、しろくま座の絶品バスクチーズケーキを二人で毎日のようにいただくなど、ちゃっかりお客さんとしても思う存分堪能してしまいました。会期中に提供されていたクリームソーダは、純喫茶におけるひとつの理想がぎゅっと詰まっているように感じられて、その佇まいに思わず声をあげるほどの完成度でした。

しろくま座の美しいクリームソーダ

展示期間中は自分も邑里さんもしろくま座に滞在させてもらい、寝泊まりからお食事まで、ひさこさんとなつさんには本当にお世話になりました(なつさんの朝ご飯のおいしさといったら!)。ふたりの子どものほーちゃんとも一緒に、まるで夏休みのような日々を過ごすことができて、とてもしあわせでした。
展示期間中に夜な夜な話し込んで、線香花火を楽しんだのもいい思い出です。

しろくま座のなつさん、ひさこさん、ほーちゃんと
雨灯(新潟・新潟市)
雨灯の展示にて、壁画となった巨きな絵
店内での展示風景、中央の小部屋に巨きな絵 巨きな絵の展示風景 深夜営業日 薪窯パン舎ほほのパンと、雨灯のスープ"ハリラ" 2023.7.1 雨灯スタッフ・ほしこさんの絶品プリン 雨灯のオーナー・野呂巧さんと熊谷

巡回展二ヶ所目は、熊谷の地元・新潟にあるお店、雨灯で行われました。

雨灯のオーナーの野呂巧さん曰く、雨灯が生まれたのは2023年春のことで、すぐ近くで野呂さんが営んでいるお店"ウチノ食堂"から、種が溢れるようにして生まれたお店だといいます。

店内での展示風景、中央の小部屋に巨きな絵

自分が野呂さんと出会ったのは2020年、かつてCDとレコードのアートワークを描かせていただいた「世界 / arca(haruka nakamura & LUCA)」をウチノ食堂でお取扱いされていることがきっかけで繋がりました。それ以来新潟へ帰省するたびにウチノ食堂を訪れては、ゆっくりと寛ぎながらも野呂さんに旅の話を聞いていただく、止まり木のような場所となりました。(当時自分は北海道移住を考えており、新潟と北海道を頻繁に行き来していました。このタイミングでご一緒できて、とても嬉しかったです)

野呂さんはかつて世界各地を旅した方であり、自分と似たように”根を持つことと翼を持つこと”に思いを巡らせながらも、今はお店や料理をとおして、その灯をともし続けています。
新しいお店の構想とその名前(雨灯)について野呂さんからお聞きしたとき、新潟で巡回展をするならぜひそこで、と内心密かに想っていたこともあり、実現が決まったときは本当に嬉しかったです。しかも実はこれが新潟ではじめての展示でした。

巨きな絵全体を広げるだけの十分な空間が雨灯にはなかったため、奥にある部屋の天井・壁・床に沿わせる形で絵を変形させて展示することに。ほのかな灯りでともすと、洞窟のような空間が出現しました。
ちょうど梅雨の時期だったこともあり雨の時間帯も多く、はからずしてお店の名前をそのまま表すような時間が流れていたように思います。

巨きな絵の展示風景

会期中、7月1日は深夜営業日として24時までお店を開き、さらにこの日限定で日没後にパンとスープをご提供いただきました。パンは雨灯から車で10分ほどの距離にあるお店"薪窯パン舎 ほほ"から、この日のために風の舟に見立てて焼かれたというパンを、スープは雨灯から、モロッコのラマダン明けに飲まれるというスープ”ハリラ”を。いずれも特別な夜の時間を彩る、素晴らしいお味でした。
(ちなみに"薪窯パン舎 ほほ"を営む佐護夫婦はもともと十勝に住んでおり、自分が十勝に移住したタイミングで知り合い、当時よくお家に遊びに行かせてもらっていた仲でした。このタイミングでご一緒できて、とても嬉しかったです。)

深夜営業日 薪窯パン舎ほほのパンと、雨灯のスープ"ハリラ" 2023.7.1

また7月7日・七夕の夜には、野呂さんと巨きな絵の前でお話会を行いました。 窓越しに二人で絵を眺めながら、絵の中に描かれた物語を読み解きつつ、描くこと、生きること、そして巨きな絵の行く末について、気がつけば二時間にもわたり、静かにお話を広げていました。お客さんは決して多くありませんでしたが、その分濃密な時間を過ごせたように思います。

会期中は地元ということもあって、中学・高校時代の同級生や、大学時代の後輩、母や双子の兄も観に来てくれました。 それ以外にも、北海道で自分が拾った鹿の角を手に取り、まるで自らの野生をそこに見出したかのように夢中になる人や、巨きな絵の前で絵の物語をとても熱心に聴いてくれる小さな男の子など、印象に深く残るお客さんとの時間を多く過ごすことができました。
巡回展の序盤のはずなのに、最後に絵を燃やす日のことについて話すことが多かったのも心に残りました。

雨灯のスタッフとしてこのとき働かれていたほしこさんと、たくさんお話ができたこともよい思い出です。(ほしこさんのプリン、絶品でした…!)
お越しくださったみなさま、野呂さん、ほしこさんに心からの感謝を。

雨灯のオーナー・野呂巧さんと熊谷
灯里(北海道・幕別町)
四年ぶりに立ち上がった巨きな絵 2023.5.31
灯里・店内での展示風景 2023.5.30 巨きな絵の設営準備 2023.5.29 OUR songs 2023.5.31

巡回展のはじまりの場所は、まず自分が住む北海道から、と考えていました。

十勝・幕別町にあるお店”灯里”は、オーガニック野菜を育てている小笠原農園が直営するカフェです。以前は”菜びより”という名前のお店でしたが、2023年4月に店名を変えてリニューアルオープンしました。

2022年の夏に小笠原農園の咲子さん(さこちゃん)と出会い、それ以来自分のパートナーである邑里さんと一緒に小笠原農園の畑でお手伝いをさせてもらったり、時々美味しいお野菜を分けていただいたりと、有難くもあたたかい繋がりが続いてきました。
そして巡回展の開催にあたり、時をほぼ同じくして新しいお店を立ち上げようとしていたこと、そして灯里という名前にも導かれるものを感じて(巨きな絵の題名は”はじまりの灯”)、展示をお願いすることとなりました。

巨きな絵の設営準備 2023.5.29

巨きな絵の設営は、邑里さんと小笠原家、そしてさこちゃんのパートナーであるゆきくんを総動員しての作業となりました。巨きな絵のパーツたちを凧糸で結んだり、展示場所にあらかじめ切り出してもらった木を地中に埋めて立ち上げたり…巨きな絵の展示は、自分ひとりだけでは到底できるものではなかったということを久しぶりに思い出していました。

本来巨きな絵の展示を予定していた5月30日は天候が怪しかったため、この日は巨きな絵の展示を見送り、屋内でその他作品の展示を行いました。13時からはツキイチパン屋さんの出店もあり、魅力的なパンがたくさん並んでいて見応えたっぷりでした。自分も店内に在廊しながら切り絵の生きものを描いたり、巨きな絵のポスターをご購入くださった方たちのサイン会?を行ったりしていました。

灯里・店内での展示風景 2023.5.30

そして翌日31日、快晴のなか、巨きな絵は四年ぶりに見事立ち上がりました。ところが風があまりに強く、文字通りの風の舟すぎて笑っているうちに、絵が早速ビリビリ破け始めたため、急きょ裏にブルーシートを取りつけることに。小笠原家総動員による早業のおかげで、かなり風を抑えることができました。

午後からは白紙を広げ、みんなで絵を描くOUR songsの時間に。鮮やかな空と大地が描かれていきました。平日のため大人の参加者がほとんどでしたが、この日のために学校を午後休んで駆けつけてきたという女の子もいて、とても嬉しかったです。

日が暮れるにつれてさらに風が強くなり、これ以上の絵の損傷を避けるため、野原におろすことに。夕暮れの木漏れ日につつまれた絵も、またきれいでした。

OUR songs 2023.5.31

余りある追い風を受けながらも、巨きな絵の巡回展は舟出をむかえることとなりました。
さまざまなハプニングに見舞われましたが、五月の十勝にふさわしい鮮やかな青空とみどりのなか、開催できたことが心から嬉しかったです。(その中でいただいた灯里のお弁当も最高でした)
お越しくださったみなさま、そして灯里のさこちゃん、ゆきくん、みなこさん、たもつさん。本当にありがとうございました。打ち上げで小笠原家とレタしゃぶ(レタスのしゃぶしゃぶ)の時間を過ごしたことも、温かな記憶として残っています。